ユキミ物語その2〜お客様の私小説より
この写真をご依頼くださった彼女が最近、
彼が亡くなるまで一緒に過ごしたストーリーを
小説のように文章化してくれました。
この撮影についても
長文に渡って熱を帯びた文章で書かれていて、
私は涙した。
フォトグラファーとしての自分の佇まいを
こんなにも客観的に知る機会はなかったからだ。
彼女から許可をいただき、
掲載させてもらうことにしました。
(ほぼ原文のままです)
![](https://happysmilephoto.com/wp-content/uploads/2022/06/7.jpg)
【行美と過ごした1カ月間】
(十)二人の愛を写真に遺す
(その2)愛の空間の撮影とポートレート
私はまず、エミ子に撮影の動機を説明するために行美の前に立ち、あのポーズをとった。
「こうやっておでこをくっつける愛情表現が好きなの。
私たちがこうしているところを写真に撮りたくて、
自撮りがどうしても難しいから、
マユミちゃんに撮ってもらおうと思ったんだけど、
その時にエミ子ちゃんのことを思い出したんだよね。」
「ふうん、なるほど。
あ、試し撮りだから気にしないで。」
と言いながらエミ子はシャッターを切り、
そのまま撮影が始まっていった。
私が行美の瞳を見つめて微笑みかけると、
彼への愛情が自然に溢れ出した。
行美も私の愛の姿に誘われてすぐにそこに出てきた。
撮影されていることを忘れているわけではないのだが、
その時、二人の間の空間が一瞬で二人だけの空間と化した。
お陰で私も行美も一切緊張することなく、
普段通りの二人であれた。
いや、普段以上に純度の高い濃密な愛の関係が
そこには現れていたのかもしれない。
二人の間は互いから溢れ出した愛情でいっぱいになった。
二人がお互いに思っている、私たちの愛の空間に、
エミ子はシャッターを切り続けた。
上半身ヌードで撮りたいことは行美に話していなかったが、エミ子の指示で私がワンピースを脱いでキャミソールになり、
さらにそれも脱ぎ捨てて上半身裸になると、
行美も何の抵抗もなく服を脱いだ。
行美の膝の上に私が座った状態で裸の体を絡め合うと、
お互いの愛は一気に熱さを増していった。
「こんだけ撮られてるのに、
普通にイチャイチャできちゃったよ。
なんだか不思議だな。」
撮影が一段落したときに言うと、
「そうなの。それが私のいいところなの。
空気のようになるのが得意なんだ。」
とエミ子は笑顔で答えた。彼女はそうさらっと言うが、
あの純度の高い愛の空間の撮影は、
大袈裟ではなく
エミ子だからこそ実現した奇跡だったと思う。
「あれ、イチャイチャが足りないんじゃないの?
もっと撮ってほしいシチュエーションとかない?
唇を重ねるのは無理なのかな?」
エミ子からのキスの提案に、私はちらっと行美の顔を見た。
「それはやめといたほうがいい。」
と行美は即答した。
私たちは再び服を着て、行美一人のショット、
二人横並びの記念写真、最後に立ち上がってのツーショットを撮ってもらい、撮影は終了した。
「行美さんはとても素敵なかたなので、お一人の写真をぜひ、私が取り組んでいる『ポートレート100人斬り』の1枚にさせてもらえないでしょうか。」
と言ってエミ子はその主旨を行美に説明した。
エミ子の当時の看板商品とも言える
「ポートレート100人斬り」とは、
エミ子が被写体の魅力を
彼女のインスピレーションの赴くままに好きなように撮るという企画で、今回で第3弾を数えていた。
終了した第1弾、第2弾では、
100人を斬り終えるとスペースで展覧会を行い、
100枚のポートレート作品は1冊の写真集に収められた。
彼女の撮るポートレートはシチュエーションも構図も実に様々で斬新であり、
被写体それぞれの個性や魅力が強烈に語りかけてきて
見応えがあった。
私は第2弾で彼女に斬られていた。
第3弾の一人として、
同時代を生きる各方面の魅力的な方々の中に
行美の写真が連なるのは私にとって喜ばしいことであった。
事前に話したときには嫌がっていた行美も、
エミ子の説明を受けると、
「キミの言う通りにするよ。」
と観念して承諾した。
続く
![](https://happysmilephoto.com/wp-content/uploads/2022/06/4.jpg)