ユキミ物語その2〜お客様の私小説より
この写真をご依頼くださった彼女が最近、
彼が亡くなるまで一緒に過ごしたストーリーを
小説のように文章化してくれました。
この撮影についても
長文に渡って熱を帯びた文章で書かれていて、
私は涙した。
フォトグラファーとしての自分の佇まいを
こんなにも客観的に知る機会はなかったからだ。
彼女から許可をいただき、
掲載させてもらうことにしました。
(ほぼ原文のままです)
【行美と過ごした1カ月間】
(十)二人の愛を写真に遺す
(その2)愛の空間の撮影とポートレート
私はまず、エミ子に撮影の動機を説明するために行美の前に立ち、あのポーズをとった。
「こうやっておでこをくっつける愛情表現が好きなの。
私たちがこうしているところを写真に撮りたくて、
自撮りがどうしても難しいから、
マユミちゃんに撮ってもらおうと思ったんだけど、
その時にエミ子ちゃんのことを思い出したんだよね。」
「ふうん、なるほど。
あ、試し撮りだから気にしないで。」
と言いながらエミ子はシャッターを切り、
そのまま撮影が始まっていった。
私が行美の瞳を見つめて微笑みかけると、
彼への愛情が自然に溢れ出した。
行美も私の愛の姿に誘われてすぐにそこに出てきた。
撮影されていることを忘れているわけではないのだが、
その時、二人の間の空間が一瞬で二人だけの空間と化した。
お陰で私も行美も一切緊張することなく、
普段通りの二人であれた。
いや、普段以上に純度の高い濃密な愛の関係が
そこには現れていたのかもしれない。
二人の間は互いから溢れ出した愛情でいっぱいになった。
二人がお互いに思っている、私たちの愛の空間に、
エミ子はシャッターを切り続けた。
上半身ヌードで撮りたいことは行美に話していなかったが、エミ子の指示で私がワンピースを脱いでキャミソールになり、
さらにそれも脱ぎ捨てて上半身裸になると、
行美も何の抵抗もなく服を脱いだ。
行美の膝の上に私が座った状態で裸の体を絡め合うと、
お互いの愛は一気に熱さを増していった。
「こんだけ撮られてるのに、
普通にイチャイチャできちゃったよ。
なんだか不思議だな。」
撮影が一段落したときに言うと、
「そうなの。それが私のいいところなの。
空気のようになるのが得意なんだ。」
とエミ子は笑顔で答えた。彼女はそうさらっと言うが、
あの純度の高い愛の空間の撮影は、
大袈裟ではなく
エミ子だからこそ実現した奇跡だったと思う。
「あれ、イチャイチャが足りないんじゃないの?
もっと撮ってほしいシチュエーションとかない?
唇を重ねるのは無理なのかな?」
エミ子からのキスの提案に、私はちらっと行美の顔を見た。
「それはやめといたほうがいい。」
と行美は即答した。
私たちは再び服を着て、行美一人のショット、
二人横並びの記念写真、最後に立ち上がってのツーショットを撮ってもらい、撮影は終了した。
「行美さんはとても素敵なかたなので、お一人の写真をぜひ、私が取り組んでいる『ポートレート100人斬り』の1枚にさせてもらえないでしょうか。」
と言ってエミ子はその主旨を行美に説明した。
エミ子の当時の看板商品とも言える
「ポートレート100人斬り」とは、
エミ子が被写体の魅力を
彼女のインスピレーションの赴くままに好きなように撮るという企画で、今回で第3弾を数えていた。
終了した第1弾、第2弾では、
100人を斬り終えるとスペースで展覧会を行い、
100枚のポートレート作品は1冊の写真集に収められた。
彼女の撮るポートレートはシチュエーションも構図も実に様々で斬新であり、
被写体それぞれの個性や魅力が強烈に語りかけてきて
見応えがあった。
私は第2弾で彼女に斬られていた。
第3弾の一人として、
同時代を生きる各方面の魅力的な方々の中に
行美の写真が連なるのは私にとって喜ばしいことであった。
事前に話したときには嫌がっていた行美も、
エミ子の説明を受けると、
「キミの言う通りにするよ。」
と観念して承諾した。
続く