ユキミ物語その1〜お客様の私小説より

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この写真をご依頼くださった彼女が最近、
彼が亡くなるまで一緒に過ごしたストーリーを
小説のように文章化してくれました。
この撮影についても
長文に渡って熱を帯びた文章で書かれていて、
私は涙した。
フォトグラファーとしての自分の佇まいを
こんなにも客観的に知る機会はなかったからだ。
彼女から許可をいただき、
掲載させてもらうことにしました。
(ほぼ原文のままです)
【行美と過ごした1カ月間】
(十)二人の愛を写真に遺す
(その1)フォトグラファーがやってきた!
 しばらく連絡を取り合っていなかったエミ子に突然の依頼を持ちかけた私は、
行美との交際や病気のことなど、事の次第を一から彼女に伝える必要があった。
そして、撮影を昨夜急に思いついたものだから
こんなに急になってしまったこと、
本人は身動きもやっとなほど重篤な状況なので体力を
あまり消耗させないことを最優先したいこと、
本人1人の写真と、私との2人の写真を撮ってもらいたく、
2人の写真はできれば上半身ヌードでお願いしたいことなどを話し、プランと枚数を相談した。
これらメッセージのやり取りの中でエミ子は、
私が言葉にする前から、
「これは2人の愛の姿を撮る撮影なのだ」
ということを汲み取った。
 エミ子に連絡をした5月31日(撮影前日)は、
低気圧のせいか普段以上に体を痛がっていた行美に、
私は撮影のことを言い出せなかった。
いっそのことサプライズで来てもらおうかと思っていることをエミ子に話すと、
≪ポートレートに臨むにはご本人の意志が大事だよ。
体調が悪いのに伝えるのは心苦しいとは思うけど、
だからこそなおさらお伝えしたほうが良いのかも。
撮られる側も心の準備が欲しいよね。≫
私はエミ子のアドバイスをもっともだと思い、
行美に撮影のことを話した。
行美は案の定、
「病気のときに写真を撮ったってしょうがない。」
「葬式のときに飾る写真を撮られるような気がして嫌だ。」
とは言ってみせたものの、私が話を進めていることもわかっていたためか
すでに観念している様子だった。
「キミの言う通りにするよ。」
 遺影の撮影が嫌だと言うわりには、
実際に行美の家には行美の写真がほとんど遺されていなかった。
数枚の免許証サイズの証明写真と、
たった2枚のスナップ写真はどれもごく若い頃のものばかりだった。
むしろその2枚が遺されていたということは、
何らかの理由で写真の大半を処分してしまったというよりは、
撮られることを嫌うためか、
写真を撮られるような付き合いの場に一切身を置かなかったために、
実際にほとんど写真を撮られていなかったのではないかと思われた。
そして私が見る限りは、行美には「撮られることを嫌う」様子を特に感じなかったので、
後者の理由が濃厚なのではないかと睨んでいる。
いずれにしても、私がいなかったら親族は
遺影の写真に困ったに違いなかった。
 エミ子とは6月1日10時に高尾駅で待ち合わせをした。
北口ロータリーに続く道に路駐して待つと、
5分前に到着の電車から降りてきた人たちの流れの中に、
ひときわ大きな荷物を持ち、
きっぱりとした足取りでこちらに向かってくる彼女の姿が目に飛び込んだ。
ほぼ定刻に現れた彼女のほうもすぐに私の車を見つけ、
こちらに手を振った。
久しぶりに見る彼女は鮮やかな水色のトップスにピンク色のマスクを着けていて、
前に会ったときよりも一層、仕事人としての気風を身にまとっているように感じられた。
 行美宅に到着し、現代の家屋ではあまりお目にかからないほどの高さのある
玄関の上がり框をエミ子に案内すると、
おそらく布団に寝ているであろう行美に到着を知らせるため細い廊下を先に駆け抜けた。
すると行美は、暑いのに長袖の服をきっちりと着て、
椅子に座って待ち構えていた。
駆け寄った私が手櫛で髪の毛を整えようとし、
「櫛を濡らしてきてとかそうか?」
と言うと、
「もうやったんだよ。」
と心外そうな声を漏らした。
行美なりに撮られるための身だしなみを整えていたのに、
申し訳ないことを言ったと思った。
 機材を持ってゆっくりと部屋へ到着したエミ子は、
自己紹介をし、行美の体調を気遣い、
土壁づくりで障子を張った行美の部屋を
「わあ、素敵なお部屋ですね。」
と褒めた。
閉じられた障子からは6月の太陽光がふんだんに差し込んで、部屋の中に陰影を作っていた。
「日常の姿の撮影でいいと思うから、布団も敷いたままで。」
と事前には話していたが、行美が椅子に座っていたことで、
その背もたれ椅子が撮影の場となった。
エミ子の指示で布団を畳んで隅に寄せ、卓上の物をどかした。
卓上にあった多肉植物ハオルチアの鉢植えは
私にとって思い入れの深いものだったので、
卓上に残してさりげなく一緒に写ってもらった。
障子から差し込む太陽光は時に逆光として、
時に顔の半面だけを照らす陰影として
彼女の作品に巧みに用いられた。
続く

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